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Posted by あしたさぬき.JP at

2008年04月26日

クリーンラーチって?

今日のNHK全国ニュースによると,





「二酸化炭素の吸収量がこれまでより20%多く、環境に優しい新しい品種の松を北海道の林業試験場が開発し、26日、記念の植樹が行われました。
新しい品種の松は、北海道立林業試験場がカラマツとグイマツの2品種の松を交配させて3年前に開発したもので、「クリーンラーチ」と名付けられました。26日は北海道庁の前庭で記念の植樹が行われ、山本副知事らが苗木を植えました。この松は、二酸化炭素をこれまでの松よりも20%多く吸収し、地球温暖化の防止に役立つことが期待されるほか、成長が早く、ねずみによる食害や風や雪などの自然災害にも強いということです。北海道では今後、2〜3年かけてこの松の苗木を増やし、北海道の各地に5万本を植えて普及を図ることにしています。北海道水産林務部の小野寺英美・主任普及指導員は「成長が早いので生産コストを抑えられるうえ、地球環境にも優しいので、この松を多くの木材加工業者に利用してもらいたい」と話しています。」

また,北海道庁のホームページでも








 懲りない人たちだと思います。
 NHKも報道内容をチェックするシステムの中に,生物学をマスターした人物がいないのだろう・・・・か。マスコミの報道姿勢には,つくづく閉口してしまいますが,こういうことなのでしょう。
 「新しい品種の松」を開発したと書いてあるので,びっくりしましたが,なんとカラマツではないですか?
 昔,赤塚不二夫のマンガに「おそ松くん」というのがあって,その6人兄弟の中にも「カラマツ」「トドマツ」君などがいて,まあ「ジュウシマツ」はあのころ流行った小鳥の名前であることは,みんな知っていましたが,カラマツ・トドマツは松の種類だとみんな思っていました。
 カラマツもトドマツも確かに「マツ科」の樹木ということではマツには違いないのですが,いわゆる「松」とは全く異なる種です。
 カラマツは,Larix属という針葉樹でも落葉するタイプの樹木。
 トドマツは,Abies属で,モミの仲間。
 だから,私たちがマツといえば普通思い浮かべるあのアカマツやクロマツとは全然異なる樹木です。ここに出てくるグイマツというのはダフリアカラマツのことで満州以北の大陸に自生するカラマツです。
 要するに,マツではなくカラマツの近縁同士で掛け合わせた結果出来る雑種強勢F1雑種のことなのです。このF1雑種は,掛け合わせた両親の種の優勢な特徴を受け継ぐことから,成長量が早い=二酸化炭素の吸収量が多いという図式で考えられているのでしょうけど,「怪しい」話です。林野庁が帯広に作ったパイロットフォレストの主役は,カラマツでした。カラマツ造林の失敗は,あまりにも有名な話
 ・・・なのに,まだ,また?やるのですか?F1雑種まで引っ張り出して・・・と,閉口してしまいます。しかも,林業技術者たる主任普及指導員が登場しての話ですから,暗澹たる気持ちになってしまいます。
 これも洞爺湖サミットのための「話題づくり」なのでしょうか? 「地球温暖化防止」という錦の御旗の下なら何をしてもいいのでしょうか?

 このことと同じレベルの林野庁のあやまちが,「抵抗性マツ」の開発です。マサノザイセンチュウ病でことごとく枯れたマツ林の復活を目指して? 大々的に国の林木育種場が全国の都道府県林業試験場と共同で開発されたマツクイムシに対する「抵抗性マツ」・・・・私も含めて,その事実を知るまで,松枯れしないマツを選抜されたものと信じていましたが,実際は,そういう期待とは全く異なる代物であったことがはっきりしてきました。黒田慶子博士は,マツノザイセンチュウがどうしてマツを枯らすのかという機作を解明したことで有名な新進気鋭の樹木生理学者ですけど,彼女がこのことの問題に着手しなかったとしたら,数年後には「詐欺事件」にまで発展していたかも知れないくらいおかしな話です。

 木は自然界の中で生きている生き物です。森林は単に木が植わっている場所ではありません。多くの生物の集合体が相互関係を持ちながら生きている生態系なのです。そのことを一番知っていなければならない森林技術者であれば「これまでの松より20%CO2を多く吸収」するなんてことは,言わないで欲しいなぁ。机上ではそういう計算が出来ても,実際のフィールドでそういうことが本当に言えるのですかね??

 もっとさかのぼれば,戦後,木材需要が逼迫して,とにかく早く成長する木を求めて,林野庁が「早生樹育成事業」を全国で展開して,全て失敗に終わったことが思い出されます。スラッシュ松,テーダ松,フランス海岸松のよう外国松,キリ・アブラギリ,ポプラ,アカシア,ユーカリなど,どれも日本の気候風土になじまなかったり,人工林化技術が未熟で病虫害で枯れたりと・・散々でした。うまい話には,気をつけましょう。  


Posted by quercus at 23:47Comments(1)おかしなはなし

2008年04月07日

マツ・スギ・ヒノキ・ザツの不幸 その2




これは大阪書籍の小学校5年生用の社会科の教科書の「国土の環境を守る」という章の「森林を守る」という節の森林の働きを説明しているページです。木材をつくりだす,動物をやしなう,水をたくわえる,空気をきれいにする,山崩れをふせぐ,人々にやすらぎを与える・・・という いわゆる森林の公益的機能について解説しています。(木材生産機能は公益的機能ではないという分類もあるが・・・・)
しかし,教科書では,続いて「森林の多い日本」を説明したあと,「森林を育てる」という項目が続くのですが,



ここまできて,森林の「緑のダム」の働きが弱くなった原因について,森林の手入れが十分でないからという説明になります。それまで「森林一般」の働きや森林面積や量について説明していたのですが,ここへ来たときに,突然「森林」ではなく森林の一部である「人工林」の話にすり替わります。

「森林をきちんと守り育てるには,たいへんな手間と時間がかかります。」
「しかし,わかい人を中心に,林業で働くヒトが年々減ってきているので,森林の手入れや植林がされていない山が増えてきています。」

こうして教えられるから,人工林の手入れ不足の問題と森林全体の荒廃の問題・・・熱帯雨林の破壊,農地化の問題などが混同してしまうのでしょうね。
先日,ことなみで開かれたフォレスターズかがわの森林イベントで,世界の森林問題と日本の森林問題は全く異なる局面での問題であり,日本の森林は荒廃しているどころか,有史以来,おそらく量的にも質的にも最も豊かな時代にあるという説明をしたところ,ある小学校の先生がいたく感動してくれて,こんな逸話を語ってくれました。
先生は,教科書に従って日本でも開発や安い外材のせいで森林の荒廃や破壊が進んでいると説明したところ,生徒は一様に「先生!私たちの学校の周りの森林は緑が一杯なのにどうしてですか? おかしい! 変だ!」という質問を先生に投げ返して,先生は回答に窮したとのことでした。・・・「私もおかしいと思っていた。生徒の意見が正しいということが今日の話でよく分かった。」ということで,当日使った図表や写真を一式差し上げました。
 人工林も「森林」には違いありませんが,森林を構成する多くの樹木を「人間に役にたつ木=有用樹」と「そうでない木=ザツ」に分け,有用樹だけを植えて育てて換金するシステムがいわゆる林業なのです。

ここで,本当の山棲みの万作おじさんこと 高知県本川の林さんのエッセーをまず引用します。

「間伐をして数年を経過しているであろうヒノキ林の中を、せっせと下刈り
 している村人がいました。シロモジやクロモジなどの下層植物がせっかく
 成長しているのに、もったいないと思いながら、内気な僕のこと?そのこ
 とを言えず、「綺麗にしてますね」と、心にもないことを言ってその場を
 あとにしました。

 そもそも、下層植物を生やして土砂の流失を防ぐことが間伐の目的の一つ
 なのに、きっと下層植物に養分を奪われると思っての作業なのでしょう。
 農法を林業に持ち込む気持ちも分からないではありませんが、無益な労働
 のように僕は思えます。
 下層植物を豊かにすれば、草花を愛でることも出来るし、美しい蝶や小鳥
 もたくさん集まってきます。森に生きるもの皆んなが楽しくなるよう、大
 らかな気持ちで森造りをしたいものです。

 今の時期、僕が手入れをした植林の中にはそのお返しに、アブラチャンや
 フサザクラ、クロモジ、ツツジ・アセビなどの花がいっぱい咲いています。
 5月になれば、コシアブラやタラの芽などがお腹を満たしてくれることで
 しょう。

    
 あとがき
  下層植物のシロモジ・クロモジ・ツツジ類・笹などは生長してもせいぜい
  2メートル程度なので、杉やヒノキの成長に悪影響を与えません。
  スギ・ヒノキと下層植物との栄養の奪い合いですが、下層植物は基本的に
  自給自足です。つまり自分の落とした葉の養分で賄っています。
  むしろ残して置いたほうが、秋には葉を落とし腐葉土になり保水力が高ま
  りいい結果につながります。」

このエッセーを読んで,ホンモノの意見は真髄をついていると思ったのです。そして,どんぐり銀行を始めた頃,彼が高知から四国新聞に投書した意見を読み返してみると,あのときもほぼ同じことを彼は私たちに忠告していたのに気づきました。

保水のための植林に一考を

今年の異常渇水で、源流地域の山のありようが意外な所で大きな関心を呼ぴました。それに関連して、最近あちこちの地域でプナやナラ、クヌギといったブナ科の幼木を山に植え付ける運動が、市民団体レベルで展開しているようです。山を守っていく者として、大勢の人たちが山に目を向けてくれるのは大変喜ばしく、また心強く思います。先日も高知県本川村の「名の谷山」で、盛大に恵みの森作りキャンペーンが催されました。私も本川村の子供たちと一緒に参加せていただきました。大勢の子供たちにとって、くわを振るい木を植えたということはこれから自然界に興味を持つ上でかけがえのない体験になったと思います。ありがとうございました。その盛り上がった機運に水を差すようで申し訳ないのですが、林業に従事している者の立場から少し気になったことを述べさせていただきます。
植えつけたブナなどの苗を育てるためには、年に一〜二回ほど下草刈りをしなけれぱなりません。一年目はまだ、ヒノキやスギを切ったばかりですので草木は少ないのですが、自然の復原力はたくましく、二、三年もすればおびただしい草や木が生い茂ります。これらは木を切ることによって、太陽光線を受けた草の種や木の実などが発芽したものです。また、植林の中といっても雑木は生えていますので、切り株から芽を吹いたものもあります。この中にはブナ科でもあるコナラやクリ、カシなど、他にはシデ、カエデ、リョウブ、ヤマザクラ、トガ、モミ、ヌルデ、ヤマウルシ、また、かん木類では、タラ、クロモジ、シロモジ、アセビ、ツツジ、サンショウといったたくさんの種類の木が合まれています。しかしながら、植え付けたプナなどの苗木を育てるためには、これらの木々を草と一緒に刈らなければならないのです。保水のみを目的とした一定の木の種類だけを育てて行くのなら、これでいいかもしれませんが、やはりその土地の環境に適した、いろいろな実のなる自生の木々が、烏や小動物たちの生態系にも一番良いのではないのでしょうか?
それに、条件の良い暖かい肥沃(ひよく)な土地で育成されたブナやクヌギ、カエデの苗は山の厳しい環境の中では大半が枯死したり、新しい根が張るまでにその土地に適した他の木々との生存競争に負けて、枯れていく場合が多いのです(クヌギは直根性ですので土の浅い場所は不適)。
では、どのような方法が良いのかというと、土地の条件などによって一概に言えませんが、針葉樹やパルプ材を切った跡地はそのままにして置くのが、自然発生への一番の早道ではないかと思われます。
先日、名の谷山の植栽現場を見て一層その感を強めたことでした。
もちろん、削り取られた道路などの土手には、木の種も雑草の種も無く、どこからか飛んで来るまではしばらく生えて来ませんから、こういった所は苗を植えたり種を蒔くのが一番良い方法です。
今の盛り上がった機運を、さらに有効的な方法で活用されることを願います。
いずれにしても、人間の都合に合わせて木を育てていくのではなく鳥にも動物にも喜ばれるような本来の森が持っている働きを取り戻していきたいものです。(高知県本川村・農林業・39歳)

「森林整備」・・「森林を整備する」という言葉が語られるときに注意しなければならないのは,これは「いい森をつくる」という意味で使われているのではないかも知れないということです。マツ・スギ・ヒノキ・ザツの不幸は ここにあるのです。「森林」がいつの間にか「人間に役にたつ木の森」にすり替わっているかも知れないからです。日本の人工林政策が行き詰まっている現状打開の方策としての「森林整備」を論ずるのであれば,何故人工林政策が行き詰まったのかという問題整理を先ずするべきでしょう。その本質を放置したまま,これまでと同じ手法で解決できるわけがありません。
 今私たちが本当に求めている森林の整備とはどんな森をつくることなのでしょうか。それは,人間の力が及ぶ範囲なのでしょうか?これまで見てきた不成績造林地や松枯れ問題,はたまた無花粉スギなど人間の「愚かさ」以外の何ものでもない失敗をもう見たくありません。・・し,自らそんなあやまちの繰り返しを看過するわけにはいかないではないですか?

 私は,別にスギやヒノキの人工林そのものを批判したり嫌悪しているのでは,絶対ありません。針葉樹人工林も適正に管理されれば素晴らしい「森林」になりますし,私はスギの大木からなる人工林は大好きです。 先日も,別子の住友林業の保護林に見学に行ってきました。

有用樹という考え方は,あまりにも人間中心の森の見方だと思いませんか? 万作おじさんもいっているように森の気持ちになって森のことを考えると,全く違う森づくりが見えてきます。

「自然のあとに ヒトが行く。」
謙虚でありたいものです。森づくりに野心は不要です。  


Posted by quercus at 23:50Comments(0)戦後林政のあやまち